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五臓六腑

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追伸:蔦姫の罠

『蔦姫の罠』の翌日




「お邪魔します、兄上。スミレ、ほら、昨日約束したお菓子。渡し忘れていたので持ってきましたよ」
「わ~、クロちゃん、そういうところホント律儀ね。よ~しよしよし、お姉ちゃまがお茶を入れてあげよ」
「‥‥‥クロヴィス、そなたも忙しい身であろう。わざわざ菓子の一つ、使いの者に任せればよいものを」
「いえ‥‥今回のこと、少々私も考えが足らず、兄上に不快な思いをさせてしまったことが気になっておりましたので、それについても是非お詫びを申し上げたくて」
「今後スミレに何かさせる時は、私に一声掛けると約束するなら、今回のことについてはもう何も申すまい」
「はい、ありがとうございます。‥‥申し訳ございませんでした」
「それよりも、私が気になっているのは、本当にこの娘が菓子ごときであのような面倒なことに手を貸したのか、それが少々疑問なのだが?」
「‥‥っ、ヴィー。急に何言い出すのよ。“物につられて何でもほいほい従うな”って、昨日あれからさんざんお説教しといて。蒸し返さないでってば!」
「クロヴィス、どうだ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「クロちゃんも、何でそこで黙り込むかな? あっ、口元笑ってんの見えてるからね!」
「クロヴィス、他にも何か交渉材料を用意していたな?」
「ああ‥‥私の口から申し上げるわけには‥‥」
「そこ、ニヤニヤしないのっ。っていうか、否定しなよっ!」
「ーーーーースミレ」
「‥‥‥‥な、なに? ヴィー」
「何を隠しているのか、自分で言いなさい。クロヴィスに一体どんな弱みを握られた?」
「‥‥‥‥‥何にも、ないってば」
「目も泳がせずに言ってのけるそなたは、さすがと言うべきか。しかし、知っているか? そなたがそうやって唇を尖らせるのは、何かやましい事がある時の癖だ。クロヴィスの前でその唇に噛み付かれたくなかったら、正直に言いなさい」
「ああ、私の事はお気になさらず、どうぞ齧り合って下さいね」
「黙れ、まっくろくろすけ」
「スミレ」
「‥‥‥‥‥‥ちょっと‥‥出来心で、落書き、してみただけだよぉ」
「落書き? 何に?」
「‥‥‥‥‥‥う、ヴィーの書いてくれた、プチトマト研究費の請求書に」
「請求書‥‥出資者のクロヴィスに先日渡した、あれか。落書きくらいで固いことを言うな、クロヴィス」
「いえ、私もね、義姉上の拙い絵の落書きなんて可愛いものなら、ああ下手くそだな、くらいで気にも留めないんですがね。明らかな改ざんの痕跡を見付ければ、見過ごす訳にも行かなかったんですよ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥改ざん?」
「あ、お茶お茶。お茶の用意しなきゃ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥スミレ」
「ヴィー、私ってばほら、この屋敷の奥様じゃない? お客様にお茶を用意しなきゃじゃない?」
「ああ、義姉上。どうぞお構いなく」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥ここに座りなさい。スミレ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥やだな、ヴィー、最近お兄ちゃんにホント似てきた。お説教する前の顔なんて、そっくりなんだけど」
「私はな、そなたを妻にいただく時に、兄上と約束したのだ。まだ幼い妹君を兄上に代わって正しく教育し、いけない事をした時には彼に代わってきちんと叱ると。甘やかすばかりが愛情ではないと、兄上は仰っていた」
「さすがは優斗殿。兄上の甘やかしっぷりを放っておけば、スミレがそのうち小悪魔から悪の大王になると危惧して、保険をかけていたのですね。よかった、よかった。これで少しは、我が国の平和も保たれるというものです」
「何言ってんの、クロちゃん。っていうか、約束が違う。私はちゃんと働いたのに、バラすなんてひどくない?」
「ああ、申し訳ありません義姉上様。ですが、私に敬愛する兄上に隠し事をすることも、ましてや騙すなんてこと出来ると思いますか?」
「できるできる」
「いいえ、できませんよ、そんな‥‥“兄上の書かれた明細の0の後ろに、明らかに拙い0が書き足されていた”なんてこと、胸に留めておくには荷が重過ぎます」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ゼロ?」
「黙れ、腹黒。今すぐそのニヤついた口を閉じろ」
「口が悪いですよ、大公夫人」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥スミレ」
「は‥‥はいはい」
「0を増やしたとは、どういう事だ。きちんと説明しなさい」
「う‥‥だからね? そのね? ヴィーの書いた0の後ろが、ちょこっと開いててね? 何だか寂しそうだったから、お友達を増やしてあげようと思ってね?」
「可愛い言い方をしても駄目だ。内容はまったく可愛くない。そなた、大胆にも桁を増やしたのか」
「ちょこまかした細工は性に合わないから。何事もやるなら大きくあれ、が野咲家の家訓だから」
「そうか、それは後日兄上に確認しておこう。私が今すべきことは、善悪の判断が出来ぬ幼い妻にしっかりと反省させ、教育し直すことだ」
「いや~~」
「そういうわけだ、クロヴィス。悪いが席を外してくれ。ああ、請求書はそなたの方で修正しておいてもらえるか?」
「ええ、もちろんですよ、兄上。私も、親愛なる義姉上が道を違えてはどうしようかと心配しましたが、兄上に任せておけば安心ですね。では、仕事を残してきておりますので、失礼致します」
「クロちゃ~ん、クロちゃ~ん!」
「いやですね、義姉上。そんな切ない声でご主人以外の男を呼べば、誤解を生みますよ」
「クロちゃんの、ばかっ!」
「スミレ、反省しなさい」

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