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五臓六腑

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雛祭り



「遂に来た。待ちに待った、この日が」
「なに? おにーちゃん、今日は笑顔が黒いよ」
「スミレが悪巧みしている時の笑顔にそっくりだが、残念ながらそなたがしても可愛くはないな」
「可愛くなくて、結構! っていうか、あんたが余裕ぶっこいてられるのも、ここまでだぞ!」
「おにーちゃん、酔ってんの?」
「こんな時間から酔っぱらって、いい身分だな」
「俺は酔ってなんかないぞ。けど、この後勝利に酔いしれる準備ならできている!」
「変なお兄ちゃん」
「可笑しな兄上だな」
「ええい、黙れ黙れ! お前達、これが目に入らんかー」
「んんー? お雛様でしょー」
「‥‥‥いい年した男子が人形遊びとは‥‥まあ、如何なものかとは思うが。個人の趣味にとやかく言う気はない」
「俺の趣味で飾ってるわけじゃないっての! 妹よ、そこの外人男に説明してやりなさい」
「丸投げは私の専売特許なんだけど~。まあ、いいか。えっとね、ヴィー、あれはお雛様って言ってね、女の子のいる家で飾る人形なんだよ」
「ほう。では、あれはそなたの為のものだったのだな。ユウト殿が、趣味で愛でていたわけでは、なかったのか‥‥」
「誤解が解けたようで、涙が出る程嬉しいよ。更に、諸君。今日は何月何日かな?」
「‥‥‥三月三日。お雛祭り当日だねぇ」
「何か、目出度い日だったのか?‥‥知っていれば祝いでもしたのだが、生憎もう夜になってしまったな」
「そう、夜になってしまったんだよ。もうあと数時間で、日付が変わってしまうのだよ。この意味が分かるか?」
「お兄ちゃんの無駄に高いテンションの意味は分からない」
「ユウト殿の不気味な薄ら笑いの意味は分からないな」
「分からないなら、教えてやろう! 雛人形には、世にも恐ろしい言い伝えがあるのだ‥‥」
「‥‥‥む、あれかな」
「うん?」
「いいかよく聞け! 雛人形はなぁ、雛祭りが終わってすぐに片付けないと‥‥‥」
「やっぱりか」
「片付けないと?」
「その家の娘は、嫁に行き遅れると言われているのだー!」
「だー」
「‥‥‥‥ほう」
「そして、俺は、今夜この雛人形を片付けずに、放置することに決めたっ!」
「なにぃ、兄めー」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「よって、菫はがっつり行き遅れ、ヴィオラントとの結婚式は先送りに‥‥ふふふふふ」
「おにーちゃん、追いつめられてるねぇ」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「許せ、妹よ。にーちゃんだって、こんな手荒な真似はしたくなかったんだが、やっぱりまだお前を嫁にやりたくないんだよぉ」
「だからって、可愛い妹に呪いをかけるなんて‥‥。悪魔に魂を売り渡しちゃったのね」
「ーーーーーくだらん」
「くだらんとは何だ! 由緒正しき大和の国の呪いを舐めるなよっ!」
「あ~、もう、ほら。おにーちゃんが変な事言うから、ヴィーってば表情筋のリハビリ始めちゃったじゃん」
「人形ごときに、ようやく掴んだ楽しみを奪われて堪るものか」
「うぬ‥‥っ、大和の怨霊も真っ青な眼力」
「眉間にすんごい縦皺」
「おいで、スミレ。そのような馬鹿げた呪い、跳ね返す程ベッドで睦み合おう」
「ーーーーーなっ‥‥!?」
「思いっきり、貞操の危機」
「ああ、我々の子供が女子ならば、ヒナ人形とやらは将来その子の為にも飾られるのだろう? 兄上殿には、責任を持って管理をお願いしたいものだ」
「ーーーこっ‥‥こ、子供!?」
「とりあえず、今すぐ雛人形片付けてよ、お兄ちゃん。平和的解決には、それしか方法がないと思うよ」
「どちらにせよ、私は迷信だの呪いだのは信じない主義なので、全く気にはしないがな」


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