五臓六腑

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プリンセス・パフェ



「くーろーちゃん。あーそーぼ~」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「なんだ、いるんじゃん。いるんなら、“いーいーよ~”って返すのが礼儀だよ」
「‥‥‥‥残念ながら、就業時間内ですので、お子様の相手はできないのですが」
「あ、そう。お子様の相手はしなくてもいいから、おねえちゃまの相手をしなさい」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「はいはい、文官の皆様、こんにちは。あ、次官さん、今日も筆圧高くって素敵ね」
「‥‥‥‥仕方ありませんね。ああ、もうこんな時間でしたか。皆さん、少し休憩にしましょう。食堂でお茶でも飲んできて下さい」
「私も行く、食堂。行った事ない、行きたい」
「何言ってるんですか。駄目に決まってるでしょう」
「どうして? お金なら持ってるよ。ヴィーにお小遣い貰ったもん」
「どれ」
「ほら」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「どうしたの?」
「スミレ、貴女はもう少し、この世界の通貨について勉強しましょうね」
「うん?」
「非常に申し上げにくいのですが、それでは紅茶一杯も頂けませんよ。兄上は、貴女に買い物させる気、ないみたいですね」
「ええっ、私謀られたのっ!?」
「兄上がそんなことするわけないでしょ。そもそも一人で出歩かせる気もなかったのでしょう。兄上はどちらに?」
「今日は皇太后様とダディがタッグを組んで待ち構えてた」
「なるほど、最凶の組み合わせですね。兄上、お気の毒に‥‥。それで貴女は、ご主人を見捨ててちょろちょろしてるんですか」
「ちょろちょろしてないもん。クロちゃんのとこに居なさいって、ヴィーが言ったもん」
「‥‥兄上は最近、私の執務室を託児所か何かと、勘違いしていらっしゃるのだろうか」
「迎えに行った時にクロちゃんのとこに居なきゃ、後でお仕置きだって言うんだもん」
「では尚更、食堂なんかに行ったら‥‥‥ああ、成る程。お仕置きされたいんですね?」
「そんなわけないじゃん。足腰立たなくなって、後で大変なんだから。それ見たお兄ちゃんは、決まってやけ酒するしさ」
「‥‥‥ユウト殿には、ご同情申し上げますよ。まったく、気の毒な星の元に生まれて‥‥」
「でも大丈夫。ヴィーは“迎えに行った時に”って言ったんだから、ヴィーが迎えに来るまでに帰ってくればいいんだよ」
「そういう揚げ足取りはよしなさい。浅はか過ぎる考えも捨てなさい。誤摩化しの効く相手ならまだしも、他ならぬ兄上ですよ?」
「やっぱり、無理?」
「無理ですね。食堂くらい、行きたいのなら兄上にお願いしてみてはどうですか? 貴女の望みなら、大体何でも叶えて下さるでしょう」
「お忍びで行きたいの。前みたいにメイド服着てこよっかな? とにかく、ヴィーは顔が割れ過ぎてるし、目立ち過ぎるからダメ」
「目立ち過ぎるのは、貴女も一緒でしょ。こんな珍しい髪のちびっ子の正体を、知らない者はこの城には居ませんよ」
「わかった、カツラも被る。で、侍女のお姉さん達と一緒に、名物プリンセス・パフェ食べるんだ!」
「ああ、アマリアス姉上の御成婚記念にメニューに加えられたという、あの常軌を逸した特大パフェですか」
「そう。三十分完食でタダなんだってね。ん? 完食したら、お金持ってなくても問題ないんじゃん? よし、行ってくる!」
「待ちなさい。あんな冷たいものばかり全部食べたら、お腹壊しますよ。貴女に何かあったら兄上が狂いますから、やめて下さい」
「じゃあ、クロちゃんも一緒に来て半分食べてよ。っていうか、おねえちゃまに奢ってよ」
「食堂に行くの前提で話を進めるのはやめて下さい。私はルドとは違うので、そう簡単に貴女の口車に乗せられてあげませんよ」
「ちっ」
「淑女が舌打ちなど、するもんじゃないです」
「クロヴィス君。おねえちゃまの、お願い‥‥‥」
「可愛い顔しても駄目ですよ。私がお茶をいれて差し上げますから、それで我慢なさい」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥クロちゃん」
「‥‥‥‥‥‥‥‥わかりました。パフェは、この部屋まで運ばせましょう」
「えっ? 出前やってるんだ!? やたっ!」
「では、兄上が迎えにいらっしゃるまで、ここで大人しくしていると約束できますね?」
「はーい」
「‥‥‥やれやれ」



皇太后&シュタイアー公爵の兄妹からやっと解放されたヴィオラントが、菫を迎えに宰相の執務室にやってくると、彼の可愛い可愛い奥方様は、自分の胸から頭の天辺ほどの高さがある巨大なパフェに、嬉々として挑んでいるところだった。
スプーンで掬った果実のアイスを口に放り込み、「頭がキーンってするっ」とはしゃぐ彼女に呆れつつ、その向いに座って逆からパフェを突いている弟を見遣る。
ヴィオラント程は甘いものが苦手ではないクロヴィスでも、さすがに大量のアイスの甘さには辟易しているようだったが、「スミレだけに任せておいたら、食べ終わる前に溶けて垂れて、執務室の机を汚されます」と、仕方なしに黙々とそれを消費していく。
しかし、上に乗っかっていたアイスの塊を二つ食べたところで、菫のパフェへの興味は完全に薄れてしまっていた。
早い話が、飽きたのだ。
乙女は、移り気な生き物なのである。
菫が上に刺さたウエハースをパリパリ齧っていると、「もう二度と買ってあげません」と睨むクロヴィスが変なところで貧乏性を発揮して、それを完食すべく果敢に挑戦を始めた。
しかし、普段食べ慣れない相手に、さすがの宰相閣下も苦戦を強いられているところに、救世主が現れたのだ。
それは、いつぞや菫の代わりに、隣国のアパレル系王兄リヒトの生け贄となった、宰相の次官である。
無駄に立派な体躯をお持ちのクロヴィスの右腕は、上司がギブアップした巨大パフェをあっという間に食べ尽くし、拍手喝采を浴びることになる。

彼の筋肉は、スウィーツで作られているのだということが、後に判明するのだった。



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