五臓六腑

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ドレス

※本編第三章「父と娘」1と2の中間設定


「ところで、兄上。コンラートでリヒト殿下と何かありましたか?」
「リヒト?」
「スミレ曰く、金髪髭男なうちの兄だな」

馴染みのレイスウェイク家の食卓を前に、皇帝ルドヴィークは思い出したように兄に問いかけた。

「いえ、昨日の夕刻、手紙が届きましてね。久しぶりでしたので驚いたのですが、さらにその内容がどうにも‥‥」
「うん?」

ルドヴィークも、隣国の王兄リヒト・ウェル・コンラートと面識がある。
特別親しいという間柄ではないが、現王ラウルと同様気さくな性格のリヒトは、貴賎を問わず誰にでもフレンドリーで嫌味がなく、ルドヴィークも比較的好感を持てる相手であった。

「何か、私かスミレに関係する用件だったか?」
「はい‥‥‥‥あのぉ‥‥‥‥‥‥」
「‥‥ふむ、どうやらくだらない用件だったようだな。リヒト兄上の評価など、既に地に堕ちているので気遣い無用だよ。ルドヴィーク君」

話題の人物の身内が一緒に朝食の席に着いていることで、少々気まずそうな顔をしたルドヴィークに、当のルータスは全く気にしないと先を促した。
言いようは容赦ないが、ルータスも次兄のことは、家族として愛してはいる。
それなりに、であるが。
しかし、困惑と何故か恥ずかしそうな様子で口を開いた、グラディアトリアの初々しい皇帝の言葉を聞いた途端、いっそ兄弟の縁を切ってしまおうかと本気で思った。

「あの‥‥、何故私にそれを尋ねられたのか、ものすごく疑問なのですが‥‥‥スミレの寸法を‥‥‥」
「ーーーーなに?」

優雅に紅茶のカップを傾けていたヴィオラントから、冷えきった声が上がった。
ルドヴィークは、自分が責められているわけでもないのに、びくりとなって背筋を正す。
それを気の毒に思ったのか、ルータスは痛むこめかみを押さえつつ、皇帝陛下を怯えさせる旧友の視線に割って入った。

「寸法‥‥つまり、スミレの胸と腰と尻のサイズを訊いてきたのか、あの兄は‥‥」
「はあ‥‥、あと首周りや肩幅なんかも、かなり詳しく知りたいと。服飾の仕事をなさってるとは聞いておりますので、スミレに服を作って下さるおつもりなのかとは思ったのですが‥‥」
「まあ、そうだろう。おそらく、兄に他意はないだろうが‥‥‥しかし、非常識すぎて、さすがの俺でも恥ずかしい‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」

コンラートにおいて、リヒトは懲りずに何度も菫にドレスを作りたいと言ってきた。
ドレス自体は構わないが、その為に愛しい少女の身体を他所の男に測らせるなど、ヴィオラントにしてみれば冗談ではないし、例え別の女性が代わりに測定をしようと、結局それがあの男の目に入るのならば許せるわけがない。
レイスウェイク家の者から聞き出せないと判断したのは賢明だが、しかしよりにもよって、縁者とはいえ一国の最高権力者に白羽の矢を立てる奴があろうか。
能天気なコンラート王族とはいえ、さすがに礼を欠き過ぎた兄の所業を、ルータスは同席した貴人達に「あんな兄で申し訳ない‥‥」と溜め息に乗せて謝罪を口にした。
そして、「もちろん返事は結構だ。手紙も是非破って捨ててやってくれ」と続けた彼に、ルドヴィークが歯切れの悪い様子で「それが‥‥」と答えた。

「クロヴィスが‥‥既に返事を書いて、早馬に乗せました」
「ほう‥‥。何と返事を?」
「彼の‥‥次官のサイズを測らせて、代わりにそれを記したようで‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥。」

ヴィオラントは末弟の言葉に、クロヴィスの次官の姿を思い浮かべた。
その人物は、庶民の出ながら宰相に才能を認められ出世した、文官のくせに無駄にがたいの良い、齢三十を越える、もちろん男性である。
ヴィオラントの可愛い可愛い恋人の、愛玩人形のような華奢な体型とは、天地以上の差があるのは言うまでもない。

まさか騙されないだろうという、グラディアトリアの人々の思いを嘲笑うかのように、後日レイスウェイク家に三着のドレスが届けられる。

それぞれ鮮やかな色とりどりの、フリルやレースやコサージュで飾られた、それはそれは愛らしく見事な出来映えの。
世界でただ一人、グラディアトリアの宰相閣下の右腕とも讃えられる、庶民上がりの次官の身体に、ぴったりのドレスが。

彼の立派なケツアゴを、襟元の繊細なレースが優しくくすぐった。

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