ロイヤルキス文庫新刊/番外編SS
ロイヤルキス文庫刊行『王太子殿下の溺愛エスコート〜恋初めし伯爵令嬢〜』の番外編SSです。
ロイヤルキス文庫さんのtwitterアカウント(@Royalkiss_b)で流していただいていたものに、少しだけ加筆しております。
雪の日の無礼講
エスペラント王国は一年の半分を雪に覆われている。
昨夜から降り続いた雪は、この日も王城を一面の銀世界にしてしまっていた。
王太子クラウス・エスペラントは窓越しにそれをちらりと見てから、ふと視線を別の窓辺へ移す。
そこでは、ミルクティー色の髪の少女が、何かに目を奪われていた。
「……アイリ?」
ハルヴァート伯爵家の孫娘、アイリ・ハルヴァートはこの日、朝から王太子執務室で本を読んでいた。
彼女が師事する宰相ミシェルが、休暇を取っていたからだ。
「アイリ、何を見ているんだ?」
クラウスは彼女の側に寄り視線の先を窺う。
すると窓の外には、雪をかく兵士達の姿があった。
「……」
アイリが熱心に見つめているのが男だと知り、クラウスはたちまち眉をひそめる。
だが彼が口を開く前に、アイリがぽつりと呟いた。
「雪合戦、したいです……」
「……雪合戦?」
首を傾げるクラウスを振り返り、アイリが頬を紅潮させて言う。
「毎年、シスター・マリアンナの家では、子供達が二組に分かれて対戦するんです」
ハルヴァート伯爵家経営の孤児院『シスター・マリアンナの家』。
そこでは、大人達は雪合戦の勝敗に小銭を賭けて楽しむらしい。
子供の遊びで賭け事とは……と呆れるクラウスの前で、アイリがちょんと唇を尖らせる。
「おじい様ったらひどいんです。去年は私のいない方の組に賭けたんですよ」
——意地でも勝とうと思いました。
そう呟くアイリに苦笑しつつ、クラウスが尋ねた。
「それで、勝ったのか?」
「はい、もちろん! 圧勝でした!」
得意げに答えた彼女に、クラウスは今度は声を立てて笑う。
そうして彼は、真っ白い庭を見下ろしながら言った。
「——よし、やるか」
「え?」
クラウスの言葉に、アイリはきょとんと首を傾げる。
「雪合戦、したいんだろう?」
「えっと、はい……」
「だから、やろうと言ったんだ」
「え、あの……クラウス様が?」
緑色の大きな瞳をぱちくりさせるアイリに、クラウスは大きく頷いてみせた。
そして、庭の兵士達を巻き込む算段を立てつつ、戸惑う彼女にコートを着せる。
すると、クラウスのコートを持ってきた人物も雪合戦への参加を表明した。
クラウスの側近、ユベイル・フラントである。
シスター・マリアンナの家出身の元孤児で、今はアイリの後見人を務めるユベイルが、苦笑しながら口を開く。
「殿下に雪玉を投げつけるなんて、兵士達にはなかなか難しいでしょう。私が率先いたしますよ」
その言葉に、クラウスがすっと目を細めた。
「つまり、ユベイルは敵か」
「そうなりますね」
クラウスの深い青の瞳と、ユベイルの眼鏡の下の灰色の瞳が互いを映し合う。
にやり、と二人の唇の端が持ち上がった。
よく似た笑みを浮かべる主従の間では、アイリがおろおろしている。
そんなアイリに向かい、ユベイルは今度はにっこりと微笑んで問うた。
「アイリ様は、殿下と私……どちらの組に入ります?」
「え、えっと……」
アイリは心底困ったような顔をして、クラウスとユベイルの顔を見比べる。
即答できない彼女に、クラウスが眉をひそめて唸った。
「悩むことか。私の方に決まっているだろう」
クラウスはそう言うと、自分のマフラーをさっとアイリの首に巻き付けた。
ユベイルはそんな二人を微笑ましげに眺めながら告げる。
「無礼講でよろしいですね?」
「望むところだ」
「アイリ様に雪玉を当てても怒らないでくださいよ?」
「そもそも、アイリには掠りさえもさせん」
クラウスはアイリを抱き寄せ、きっぱりとそう宣言した。
この後、王城に詰める大勢の兵士が加わり、雪合戦は大盛況。
最終的には、女王マチルダ・エスペラントまで参戦し、思わぬ一大イベントとなった。
協力書店にてご購入いただくと特典ペーパーがついてきます。
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合わせてよろしくお願いいたします!


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雪の日の無礼講
エスペラント王国は一年の半分を雪に覆われている。
昨夜から降り続いた雪は、この日も王城を一面の銀世界にしてしまっていた。
王太子クラウス・エスペラントは窓越しにそれをちらりと見てから、ふと視線を別の窓辺へ移す。
そこでは、ミルクティー色の髪の少女が、何かに目を奪われていた。
「……アイリ?」
ハルヴァート伯爵家の孫娘、アイリ・ハルヴァートはこの日、朝から王太子執務室で本を読んでいた。
彼女が師事する宰相ミシェルが、休暇を取っていたからだ。
「アイリ、何を見ているんだ?」
クラウスは彼女の側に寄り視線の先を窺う。
すると窓の外には、雪をかく兵士達の姿があった。
「……」
アイリが熱心に見つめているのが男だと知り、クラウスはたちまち眉をひそめる。
だが彼が口を開く前に、アイリがぽつりと呟いた。
「雪合戦、したいです……」
「……雪合戦?」
首を傾げるクラウスを振り返り、アイリが頬を紅潮させて言う。
「毎年、シスター・マリアンナの家では、子供達が二組に分かれて対戦するんです」
ハルヴァート伯爵家経営の孤児院『シスター・マリアンナの家』。
そこでは、大人達は雪合戦の勝敗に小銭を賭けて楽しむらしい。
子供の遊びで賭け事とは……と呆れるクラウスの前で、アイリがちょんと唇を尖らせる。
「おじい様ったらひどいんです。去年は私のいない方の組に賭けたんですよ」
——意地でも勝とうと思いました。
そう呟くアイリに苦笑しつつ、クラウスが尋ねた。
「それで、勝ったのか?」
「はい、もちろん! 圧勝でした!」
得意げに答えた彼女に、クラウスは今度は声を立てて笑う。
そうして彼は、真っ白い庭を見下ろしながら言った。
「——よし、やるか」
「え?」
クラウスの言葉に、アイリはきょとんと首を傾げる。
「雪合戦、したいんだろう?」
「えっと、はい……」
「だから、やろうと言ったんだ」
「え、あの……クラウス様が?」
緑色の大きな瞳をぱちくりさせるアイリに、クラウスは大きく頷いてみせた。
そして、庭の兵士達を巻き込む算段を立てつつ、戸惑う彼女にコートを着せる。
すると、クラウスのコートを持ってきた人物も雪合戦への参加を表明した。
クラウスの側近、ユベイル・フラントである。
シスター・マリアンナの家出身の元孤児で、今はアイリの後見人を務めるユベイルが、苦笑しながら口を開く。
「殿下に雪玉を投げつけるなんて、兵士達にはなかなか難しいでしょう。私が率先いたしますよ」
その言葉に、クラウスがすっと目を細めた。
「つまり、ユベイルは敵か」
「そうなりますね」
クラウスの深い青の瞳と、ユベイルの眼鏡の下の灰色の瞳が互いを映し合う。
にやり、と二人の唇の端が持ち上がった。
よく似た笑みを浮かべる主従の間では、アイリがおろおろしている。
そんなアイリに向かい、ユベイルは今度はにっこりと微笑んで問うた。
「アイリ様は、殿下と私……どちらの組に入ります?」
「え、えっと……」
アイリは心底困ったような顔をして、クラウスとユベイルの顔を見比べる。
即答できない彼女に、クラウスが眉をひそめて唸った。
「悩むことか。私の方に決まっているだろう」
クラウスはそう言うと、自分のマフラーをさっとアイリの首に巻き付けた。
ユベイルはそんな二人を微笑ましげに眺めながら告げる。
「無礼講でよろしいですね?」
「望むところだ」
「アイリ様に雪玉を当てても怒らないでくださいよ?」
「そもそも、アイリには掠りさえもさせん」
クラウスはアイリを抱き寄せ、きっぱりとそう宣言した。
この後、王城に詰める大勢の兵士が加わり、雪合戦は大盛況。
最終的には、女王マチルダ・エスペラントまで参戦し、思わぬ一大イベントとなった。
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