1111落書き

せっかくのポッキーの日なので。
甘いの苦手な旦那のために、嫁が甘い部分全部食います。
<11/12>
一日遅れですが、折り畳み記事にて小話追加しました。
「ヴィーはそこで待っていなさい」
ヴィオラントの愛らしい妻は、そう言って彼にお菓子の端をくわえさせると、自分は反対側の端にかじりついた。
硬く焼いた細い棒状のクッキーには、たっぷりとピンク色のクリームがまとわりついている。
ヴィオラントがくわえさせられたのは、持ち手として僅かに残されたクリームのない部分だ。
だが、目と鼻の先にあるピンク色の部分からは濃厚な甘ったるい香りが漂い、甘いものが極端に苦手な彼はそれだけで酔いそうになる。
それでも、ヴィオラントにはその試練に耐えて、お菓子の端を口にくわえて待たねばならない理由があった。というのは……。
——ぽりぽりぽり
反対側をくわえた愛妻、菫の魅惑的な唇が、お菓子をかじりながら少しずつ彼の方へと近づいてくるのだ。
それは間もなくヴィオラントの元へと到達し、彼は少女の柔らかな唇の温もりを味わえるに違いなかった。
――ぽりぽりぽり
あと、もう少し……
「……」
ところが、ヴィオラントにはそのもう少しが待てなかった。
早く菫の唇にキスをしたくてたまらず、じっと大人しく待ってなどいられなかった。
彼は自分の膝に座った菫の背中に両腕を回して抱き込み、突然口を開いたかと思ったら、がぶりとそのお菓子——イチゴポッキーを大きく齧ったのだ。
「ん? ……はぷっ!?」
その予想だにしなかった行動に、菫は紫色の瞳をぱちくりさせてひどく驚いた様子。
ヴィオラントがそんな彼女のびっくりまなこを間近で覗き込んだ瞬間、ぐっと脳天に突き抜けるような強烈な甘味が口の中に広がった。
しかし、それに彼が眉を顰めるのを抑えるように、間髪入れずに今度は瑞々しい唇の感触が。
「ん……」
そうして、互いに口の中に収まったものを奥歯で噛み砕きながら、二人はしばしの間もごもごと忙しないキスをした。
イチゴポッキー一本食べるのに、いったいどれだけ時間をかける気なのか。
しかし、そんな彼らの甘いおやつの時間を邪魔するような野暮な者は、ここにはいない。
やがて、ようやく二つの唇が離れると、片手にまだ数本のイチゴポッキーが入った袋を掲げた菫がにこりと微笑んで首を傾げた。
「それで、ヴィーさん? 衝撃のイチゴポッキー初体験の感想は?」
「……うむ……とにかく甘い」
心地よいキスの余韻をたちまち凌駕するイチゴクリームの甘さに、ヴィオラントはとたんに辟易した様子でため息をついた。
すると、菫は今度は悪戯な笑みを浮かべて、「じゃあ、これは?」と問いを重ねた。
その手に握られていたのは……
『トッポ——最後までチョコたっぷり』
「……そんな、逃げ場のないものは勘弁してくれ」
ヴィオラントは、見ているだけで甘ったるそうなパッケージから目を逸らすと、妻の唇が甘い試練を言い渡す前に、己のそれで塞いだ。
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