fc2ブログ

五臓六腑

このサイトに掲載されている小説及びイラストの著作権はくるひなたにあります。無断での引用、転載、配布など固く禁じます。

女子会

女子会

『蔦王』『瑠璃とお菓子』『雲の揺りかご』の女子達の、
赤裸々なお話


 本日は晴天なり。
 大国グラディアトリアの帝都の北東、レイスウェイク大公爵邸の緑溢れる庭園においては、実に華やかなる面々が顔を揃えていた。
 まずは、この屋敷の当主ヴィオラント・オル・レイスウェイク大公爵の愛妻、菫・ルト・レイスウェイク。
 最年少の彼女だが、今日は屋敷の女主人としてホスト役を務めている。
 続いて、レイスウェイク大公爵の腹違いの妹にして、隣国コンラートの王妃アマリアス・フィア・コンラート。
 生まれながらの皇女様は輝かしい美貌を蕩けさせ、隣に座る愛玩人形のような菫に終始べったり。
 そして、ヴィオラントとアマリアスの弟であるグラディアトリアの宰相、クロヴィス・オル・リュネブルク公爵に見初められ、最近結婚前提の交際を始めたばかりの少女はルリという。
 彼女は、皇太后陛下の侍女でもある。
 そうして最後に紹介するのが、この中では一番の新参者。
 コンラート国王の三番目の兄、ルータス・ウェル・コンラートと付き合い始めた城田郁子は、菫と同じく世界を渡った日本人。
 一番年上で面倒見のいい郁子は、皆のお姉さん役でもある。

 うららかな昼下がり。
 真っ白いクロスのかかったテーブルの上には、菫とルリがそれぞれこしらえたお菓子が並び、上質の紅茶の芳しい香りが淑女達を包み込む。
 彼女達の華やかさには、色とりどりに咲く花々とて敵うまい。
 客人達のカップに紅茶を注ぎ終えたホスト菫は、自分のそれに唇を付けながら口火を切った。

「ところで、ルリさん。クロちゃんとはうまくやってるの?」
「えっ? あ、あの……その……」
「っていうか、もう致したの?」
「いっ……致しっ……!?」

 菫の直球な質問に、初心で大人しい性格のルリは顔を真っ赤にぶんぶんと首を横に振った。
 その様子に、「あら?」と意外そうな声を上げたのはアマリアス。

「クロヴィスにしては奥手ですわね。今までは、ほいほい気軽につまみ食いしてましたのに」
「アマリー、そういう過去の悪事は、ルリさんの前でバラしちゃダメ」
「あら……ごめんあそばせ」

 一つ年下の腹違いのクロヴィスは、アマリアスにとっては弟というよりも喧嘩友達。
 幼い頃から彼の優秀さは鼻についた。
 次期宰相として期待され、大好きな兄ヴィオラントの側にいつも付いていられたクロヴィスに、アマリアスは少なからず嫉妬を覚えていたのだ。
 さすがに今ではそのような子供じみた感情は抱かないが、あまり褒められたことのない彼の女性遍歴を知っている手前、明らかに今までの女と違うタイプのルリを見初めたことに、戸惑いを隠せないらしい。
 アマリアスの言葉を聞いて、ある程度の噂を知っていたルリは困ったように微笑んだだけだったが、その向かいに座った郁子が眉を顰めた。

「そんな盛大に遊び回っていた男が、急に大人しくなれるものかしら」
「あーあ、アマリーが郁子さんの男性不信スイッチ押しちゃったー」
「あらぁ……」

 これまで実の父親を含め、様々な男の不誠実に振り回されてきた郁子は、基本的に男に対して厳しく警戒心が強い。
 それでも、ルータスというある意味無邪気な相手と連れ添うようになり、幾らか素直に男性に甘えることもできるようになったが、今度は彼の天然過ぎる性格に振り回され続けている。
 そんな郁子に、「その男で大丈夫なの? 我慢してない?」と心配そうに顔を覗き込まれたルリは、頬を赤らめたまま慌ててこくこくと頷いた。

「だ、大丈夫です! クロヴィス様はとてもお優しく、誠実な方です。意気地なしな私を、じっと待っていて下さってます」
「つまりはルリさん、クロちゃんにお預けくらわしてんのね。やるぅー」
「やるぅーですわね、ルリ。クロヴィスったら、いい気味ですわね、うふふふふ」

 きゃっきゃと盛り上がる菫とアマリアス、そして「あの、そんな」とおろおろするルリを眺め、郁子は今度は「うーん」と胸の前で両腕を組んだ。
 そうすると、寄せて上げて効果で胸元に見事な谷間ができ、菫に非常に羨ましがられる。
 ちなみにバストの豊かさは、郁子→アマリアス→ルリ→菫と年齢に比例しており、その話題になるといつも末っ子が盛大に拗ねるので気をつけなければならない。
 可愛い紫のジト目に睨まれた郁子は、慌てて組んでいた腕を解いてコホンと咳払いすると口を開いた。

「ずっと気になっていたんだけど……この世界の人って割と性に奔放よね。特に貴族の人達って、もっと貞操とかうるさいんだと思ってたけど……」
「そうですわね。ある程度の節度をわきまえれば、女でも比較的自由に振る舞えましたわ。わたくしは、ラウルが初めてで唯一の相手で、婚儀の夜が初体験でしたけれど」

 アマリアスが夫であるラウルと初めて会ったのは、幼い彼がグラディアトリアに留学してきた時。
 七歳と九歳だった二人は出会った瞬間互いに運命を感じ、初恋を実らせアマリアスの成人を機に婚約した。
 純愛を貫いた九年間、一度も手を出さずに我慢したラウルは賞賛に値する。

「アマリアス様、素敵です……」

 そんな元第一皇女の清らかな純愛物語に、現在恋する乙女真っ最中のルリはうっとりと頬を染めた。
 アマリアスはそれに婉然と微笑みを返し、ルリの作った栗のパイを紅を引いた口に放り込む。

「ルリも、せっかくここまで守ってきた貞操、クロヴィスとの初夜に取っておいてあげてちょうだいな。それと、出来るだけ早くあの子に本懐を遂げさせてやって下さいまし」
「ア、アマリアス様っ……!?」
「あまり禁欲生活が長引くと、さすがに少し可哀想ですから。ねえ、スミレ」
「そっスね」
「ス、スミレ様まで……」

 ルリとクロヴィスの関係はすでに王宮内では有名で、天涯孤独のルリの後見人となっている皇太后陛下も二人の仲を認めている。
 彼らが婚約するのも時間の問題であろうと誰もが思っているが、深く恩義を抱く皇太后陛下にもうしばし仕えたいとのルリの想いを汲み、彼女の気が済むのをクロヴィスが待ってやっている状態なのだ。
 何でも己の意のままに動かしてきた宰相閣下の譲歩は、そのままルリへの思いやりの表れであり、クロヴィスがいかに彼女を大切に思っているのかうかがえる。
 泣く子も黙る冷血漢と弟を決めつけていたアマリアスは、クロヴィスの意外な一面を見たと笑いながら続けた。
 
「意外といえば……ルータスお義兄様が行動派だったことが、わたくしとっても意外でしたわ。閨でのことなど、これっぽっちも興味をお持ちでないと思っておりましたのに……」
「あれは、本能のままに行動した結果だよね。何にも考えてないよ、きっと。郁子さんが好き~って思いが即動物的行動に直結しただけだよ、絶対」

 散々な言われようであるが、ルータスについてはそれが否定しきれない。
 郁子は、はははと乾いた笑いをこぼした。

「クロヴィスとルータスお義兄様、どちらが先に結婚までこぎ着けるか、賭けます?」

 続くアマリアスの提案に、ルリと郁子は目を丸くして顔を見合わせ、「それは、ちょっと……」と揃って口元を引き攣らせる。
 そんな二人を嘲笑うかのように、「はいっ!」と元気な声が脇から上がった。
 女三人の視線を一身に集めた菫は、片手を真っ直ぐに天に向かって上げたまま、大真面目な顔をして告げた。


「クロちゃんがいろいろ画策している間に、うっかりルータスと郁子さんが出来ちゃった結婚する方に、一票」


 とたんに郁子は頬を真っ赤に染め、「菫ちゃん、何てこと言うのっ!」と叫んだが、アマリアスとルリはこっそり頷き、菫の予想にそれぞれの票を投下した。
 郁子は恥ずかしさを誤魔化すように、菫の作ったショコラのケーキを口に放り込む。
 舌の上でたちまち蕩けた甘味に少しだけ肩の力を抜き、仕返しとばかりに菫に話の矛先を向けた。

「そういう菫ちゃんは、ヴィオラントさんといつそういう関係になったの?」
「うん?」
「もちろん……結婚してからよね?」
「――違いますわよ」

 横から即答したアマリアスに、菫はきょとんと首を傾げた。

「なんで、アマリーが答えるのよ。まあ、あってるけど……」
「お兄様とスミレは、わたくしが初めてスミレにあった時にはもう、いい感じになってましたわ」
 
 自称菫ファンクラブ会長、及び、菫オタクを自負するアマリアス。
 あれは、こちらの世界にやってきてどれほど経ってのことだったのかと改めて尋ねた彼女に、菫はけろりとした顔をして「前日の夕方に来たばっかりだった」と答えた。
 ぎょっとしたのは、それを聞いていた郁子とルリだ。

「ってことは、菫ちゃん……出会ってすぐに? そんな……いくらなんでも、性急すぎない!?」

 郁子はそう言うと、菫のような小さな女の子相手にいきなり何てことをするのだと、ヴィオラントに対してぷんすか腹を立てた。
 ルリも、偉大なる先帝陛下はそんなに手が早くていらっしゃったのかと、目を丸くする。
 一方、ヴィオラントを擁護する意図はなかっただろうが、正直者の菫は包み隠さず全てを告げた。

「あのね、たぶん誘ったの、私」
「……え?」
「あの時は、とっても人肌が恋しかったのよね」

 こういうの、“誘い受け”って言うんだよーと、無邪気な顔をして続ける菫に、郁子は言葉を失った。
 ルリは顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせている。
 そんな二人を気に留めず、さらに菫が発したのはとどめの一言。
 
「ちなみに、ハジメテは夜ではなく、朝の出来事でした」
「すっ、菫ちゃん……!!」

 ついに郁子は頭を抱えてテーブルの上に突っ伏した。
 ルリも、ただでさえ畏怖を感じて直視し難い先帝陛下に、今後余計に顔を合わせ辛くなったと困った様子。
 ただし、アマリアスだけは満面の笑みを浮かべ、「スミレ、やるぅー、ですわ」と親指をおっ立てた。
 


<おわり>



男子会も、そのうちあるかもしれない。


関連記事
スポンサーサイト



Comments

えっと…お願いです…ごめんなさい

blogに小話集纏めて下さって新しいお話と供に読めて嬉しいです。でも時々小話って読みたくなるので今までの小話集にも入れていただけると読みやすいです。blogだけだと思い立った時直ぐに読めないので…blogが増えていくと過去に遡らなきゃですよね?ごめんなさい我が儘な事言って…今朝Twitterみたらblogだけの公開ってあったからつい…私Twitterやって無くてこっちに我が儘な意見を書いてしまいましたごめんなさい

2012.04.17(Tue) 10:36       ひろ さん   #-  URL       

もっとごめんなさい

私が小話集をお気に入り登録すれば良いだけの話ですね…今までも小話集に入って無いお話はお気に入り登録してたのに…つい…お馬鹿なお願いした後に気付いたお馬鹿な私…ごめんなさいです

2012.04.17(Tue) 10:55       ひろ さん   #-  URL       

いえいえ~

>ひろ様
いつも読んでいただきありがとうございますv
こちらのブログサイトがすっかり小説家になろう更新のお知らせ板のようになっていたので、
いっそ閉鎖するかとも考えていたのですが、せっかくですから今回の「女子会」のようなコラボ作品など、収納場所に迷うような小話を、ブログで限定してアップしていこうかと思い立ちました。
今までアップした小話集は、そのままなろうの方に残しておくつもりですので、新作ともども今度ともどうぞよろしくお願い致します。

2012.04.17(Tue) 13:19       ひなた さん   #-  URL       

こんばんは

ぜひ男子会やって下さい(*´ω`*)

2012.04.17(Tue) 23:49        さん   #2KAA5AT6  URL       

ありがとうございますv

> 苺様、いつもありがとうございますv
男子会も本日アップしましたので、また楽しんでいただければ幸いですv

2012.04.19(Thu) 22:26       ひなた さん   #-  URL       

Post A Comment

What's New?