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五臓六腑

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宝探し

 わんわんわんわん! ここ掘れわんわん――! ポチ――ならぬ銀色の毛並みの美しい狼が、吠えて知らせる土の中。 正直爺さんならぬ年頃の乙女が、大きなスコップをざっくざっくと振り下ろし、一心不乱に掘り起こす。「ここにすごいものがあるんだね、フェンリル。ご褒美は何がいいか、考えときな」「……わんっ」 明け方近くまで雨が降っていたので、地面は湿って柔らかく掘りやすい。 頬に土が飛ぼうと泥濘に足を取られようと、ま...

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出てきた魔物

 それは、闇そのもののような漆黒の髪。朝日に照らされ輝くのではなく、光を奪って食らい尽くすよう。 こちらをひたと見据えた瞳は、鮮血のような妖しい赤。 怜悧な目元にすっと通った鼻筋、薄い唇。 まるで透けるように白い、温かみをまったく感じさせない肌。 それは、イヴの住まうラナークのような辺境の村には実に不釣り合いな、壮絶なまでの艶を含んだ美貌の男――の胸から上の部分だった。  何故なら、彼が立っているの...

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ほどほどがちょうどいい

「お前、年頃の娘のくせに可愛げがないな。見目は悪くはないのに、勿体ない」「ちょっと……」「……それより」 露骨に眉を顰めるイヴを、男は赤い目を光らせて面白そうに眺めながら、掴んだ彼女の顎をぐっと上を向かせる。 露になった少女の華奢な首筋に顔を寄せ、その奥に透ける血管を焦がれるように、ふんふんと鼻を鳴らした。「お前……何故こんなに、うまそうな香りがするんだ……?」 そう言った男の舌が、べろりと無遠慮にイヴの...

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魔物と幽霊

「どういうことなのっ! どういうことなのっっ!!」「うるさいな、ウォルス。重ねて言うな」「何度でも言うよ! 一体全体、これはどういうことなのっ!?」 シドを見たウォルスは、眦をつり上げてイヴに詰め寄った。 ウォルスも、普通にしていれば上品な美形で、身なりから見て生前はそれなりの身分であったのだろうと分かる。 しかし、とにかくイヴに関わると、彼はいちいち騒がしく極端だ。 彷徨う魂は、よほど“見える”人...

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働く魔物

 カリカリに焼かれたベーコンに、ふわっふわのオムレツ。 野菜がたっぷり入ったスープは、ミルクベース。 パンは昨日ご近所でもらったものだが、オーブンで焼き直されて、ふわふわのほかほか。 温められたポットからは、紅茶の芳しい香りが立ち上る。 小さな木の食卓の上には、温かい朝食が用意されていた。「……ごはん」「ああ、やっと出てきたか。冷めないうちに、食えよ」 濡れたイチゴ髪をふきふきしながらやってきたイヴ...

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身に余る注文品

「シド、脱ぎな」「……お前、何でも唐突すぎると言われないか?」 ため息を吐いて返したシドの言葉に、イヴは「よく言われる」と胸を張って頷いた。 美味しい朝食を腹一杯平らげると、イヴは上機嫌で洗面所に歯を磨きに行った。 その間に、シドは手早く食卓の上を片し、洗い物まで済ませてしまった。すでに立派な家政夫である。 そうして、出掛けるために着替えてきたイヴは、シンプルな七分袖チュニックとレギンスにぺたんこの...

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君が好き

「そういえば、イヴちゃん。例の放蕩息子、また来てるよ」「またぁ!?」 清算した商品を袋に詰めながら、エヌーは思い出したように口を開いた。 彼の言う「例の放蕩息子」とは、ラムール村を含め周辺の五つの地を治める領主、シュザック家の末息子ハグバルドのことだ。 領主シュザック候はとても人徳のある方で、五つの町村の自治を尊重しつつ、それぞれの長との連携も怠らない。 しかし、末の息子は彼が随分年老いてからでき...

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化け物屋

 イヴは、やたらと動物に懐かれる。 荷引きの馬に会えば「撫でれ」と長い鼻面を擦り寄せられ、牛にはもうもう鳴いて頬ずりされる。 犬は尻尾を振って寄ってきて、猫はフェンリルを警戒しながらも、そっと足元に擦り寄っては去っていく。 小鳥は、彼女のストロベリーブロンドの髪がお気に入り。 ちゅんちゅんと啄んでは肩に侍り、ごくたまにプリッとありがたくないお土産を残していくのは困ったものだ。 さらに、イヴに群がる...

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純潔の乙女

「……」 さて、自宅に辿り着いたイヴとその一行であったが、彼らは玄関の扉の前で逡巡していた。 カポロ婆さんが残してくれた家はなかなか立派で、大きめの玄関扉には呼び鈴が取り付けられている。 それが今、誰も手をかけていないというのに、ひとりでに震えてリンリンリンリンと音を立てているのだ。 いや、震えているのは呼び鈴だけではない。 扉はもちろんのこと壁から屋根にいたるまで、家屋全体がガタガタと小刻みに揺れ...

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哀れな幽体

 家屋は、まだビリビリと身を震わせている。 どうやら禍々しい怒気を放つ幽体ウォルスを落ち着かせるには、イヴ本人が行って宥める他なさそうだ。 イヴは「めんどくさいめんどくさい」とぶちぶち言いながらも、仕方なく扉に手をかけた。 ただし、表の玄関からではなく、オルヴァの厩舎の向いにある裏口から入ることにした。 しかし、家から出られないウォルスにとっては、その内部が全てである。 隅々にまで気配を張り巡らせ...

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キスと報酬

 イヴが奥の部屋へ行くと、シドはすでにキッチンに立って料理を始めていた。 先ほど遅めの朝食を食べたばかりだと思ったが、外出してそれなりに小腹も空いている。 特にやることがないイヴは、手を洗ってきてダイニングの椅子に腰掛けた。(そういえば、エプロン買ってあげるの、忘れた……) そう思いながら、てきぱきと仕事をこなす魔物の後ろ姿を眺める。 白いシャツに黒いパンツ。 緩く癖のついた艶やかな黒髪は、無造作に...

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どら息子

 ――ドサリ そう音を立てて、客間のテーブルの上に置かれたのは、大きく膨らんだ麻の袋だった。 それを持ってきた本人が、頼まれもしないのに袋を縛っていた紐を解いて、中身を曝け出す。 そこに詰まっていたものがじゃらじゃらと硬質な音を響かせて傾れ、イヴは思わずごくりと唾を飲んだ。「これだけ用意すれば文句はないだろう。今日こそ、いい返事をきかせてもらおう」 そう言って、ソファに偉そうにふんぞり返ったのは、ま...

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新月の闇

  白銀の長い髪に、魔物の証であるルビーのように真っ赤な瞳。 白磁の肌には温かみは感じられないが、長い睫毛を瞬かせたそれは、確かに生きてそこに立っているのだろう。 すっと通った鼻筋は形良く、薄い唇は上品だ。 恐ろしく精巧なシンメトリーに整った容姿には、畏怖さえ覚える。 しかしながら、その背は低く身体は華奢で、見た目の歳は十にも満たないような幼さ。 少年のように見えるが、その容貌は中性的で、はっきり...

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銀狼

 一年に一度。 十一番目の新月の夜に、強大な闇が頭上を通る。 イヴがそれに見つかれば奪われるとの恐れにとらわれ、フェンリルは力の強い魔物を探していた。 イヴの魔物を魅了する力と同等、あるいはそれを越える強さの魔力でもって、彼女から放たれる甘美な気配を中和し、闇から隠す。 そのためには、イヴと魔物が体液レベルで深く交わる必要がある――つまり、身体を交えろと、フェンリルはシドに命じたのだ。 それには、さ...

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出掛けよう

  「シドー、おはよ。お弁当作って」「お前……そういうことは、昨日の夜のうちに言っておけ」 むにゃむにゃと眠い目を擦りながら起きてきたイヴは、すでにキッチンに立っていたシドを見つけるなりそう言った。 肩を少し越えるほどの長さの、甘い色の混ざった真っ直ぐなブロンド。 踝まで覆い隠すすとんとしたクリーム色の寝間着は、所々にリボンが散りばめられていて、意外に可愛らしいデザインだ。 イヴの片手は不格好な黒猫...

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魔を従える娘

 オルヴァに外出の件を告げ、一度自室に戻って着替えたイヴが再びキッチンに顔を出すと、テーブルの上にはすでにほかほかの朝ご飯が並べられていた。 それだけではなく、先ほど思いついたように頼んだお弁当まで、完成間近であった。「……ごはん」「ちゃんと手を洗ってきたか?」「洗ってきた」「なら、冷めないうちに食え」 イヴは椅子に腰を下ろし、まずはお気に入りのカップに注がれたスープを飲んだ。 今日は、優しい味わい...

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イヴ御一行様

 自宅を出発したイヴ達は、昨日シドを掘り起こした森に向かった。 特産の穀物ムールの収穫期を終えたラムール村の朝は、この日もやはりゆっくりで誰にも会わなかった。 そんな静かな道中であったが、森の入り口にある大きな樫の木の下を通りかかった時、突然何かが木の葉の影からわらわらと降ってきた。 白くてふわふわとしている、毛玉のような小さな物体だ。「なんだ、これは」 シドは初めて見たらしく、不思議そうな顔でそ...

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