蔦姫のショコラ:前編
「‥‥まずは、今のこの状況の説明から聞こうか」「も‥‥申し訳ございません、旦那様‥‥‥」 グラディアトリアの先代皇帝であり、二年前に正妃腹の末弟ルドヴィークに玉座を譲って、現在は悠々自適の隠居生活を楽しむ、当国唯一大公爵の位を持つヴィオラント・オル・レイスウェイクのお気に入りの場所は、緩やかな木漏れ日の心地よい自室のテラスである。 本日もゆったりと昼食をいただいた後は、書斎から見繕ってきた蔵書を数冊テー...
蔦姫のショコラ:後編
「特別心配することもなさそうですね。お飲みになった酒は少量ですし、軽く酔いが回っただけでしょう」 侍従長サリバンが念のため、主人の許可を得て菫を診察した。 顔から首筋にかけてが火照り、脈も速くはなっているが、本人は気分は悪くはないと言うし、一過性のものだろうと結論付けられた。「ですが、スミレ様はあまり酒に強くない体質のご様子ですので、今後飲まれる時は気をつけて差し上げてほうが宜しいでしょう」「そう...